大学時代に剣道は強いが水泳はまるでだめという先輩がいた。
それで教員採用試験を落ちたほどカナヅチだったのである。
「泳ぎながらどうやって息をするのかわからない」と先輩は嘆く。
シャワーを浴びても溺れるくらい息継ぎが苦手で
未だかつてシャワーで髪を洗ったことない人である。
先輩は岐阜県出身だったが瀬戸内で育ったワクは
この泳げない先輩が不思議でしょうがなかった。
ところがワクの今のサックスがそのとおりである。
サックスの息継ぎは<すばやく深く>するらしい。
しかしワクの息継ぎは<ぎこちなく浅く>である。
急いで吸おうとするとリズムに間に合わない。
じゅうぶん息を吸えずに吹くから苦しくなる。
それでもあっぷあっぷの状態で吹き続けるから
音は乱れて先細り酸欠の金魚のごとく苦しくなる。
それこそ命がけで生還するのがワクのサックスなのだ。
今では先輩の気もちが充分わかる・・・。
<カナヅチの心を今にして知るオンチ>だろうか。