村上春樹が愛してやまないスタン・ゲッツ。
スタン・ゲッツは情緒的に複雑なトラブルを抱えた人だったし
その人生はけっして平坦で幸福なものとは呼べなかった。
しかし生身のスタン・ゲッツがたとえどのように
厳しい極北に生を送っていたにせよ
彼の音楽がその天使の羽ばたきのごとき
魔術的な優しさを失ったことは一度としてなかった。
うっとりと心に沁みこんでいくスタン・ゲッツのテナー。
ところが彼の私生活たるやめちゃくちゃのし放題なのだ。
生きることが人を傷つけることのような人物で
ヘロイン欲しさに強盗して逮捕されたりする・・・。
そんな彼がいったんマウスピースを咥えたとたん
<天使の羽ばたきのごとき優しさ>を奏でるのだから。
スタン・ゲッツ(Stan Getz) 1927年~1991年
『スタン・ゲッツ・プレイズ』(1952年)のジャケットから。